起業からわずか4年でM&Aを達成 RPA導入支援で“平穏な朝”をもたらすスタートアップ起業家 Peaceful Morning株式会社 藤澤専之介さん

Peaceful Morning株式会社を設立したのは2018年9月のこと。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という、実際のロボットではなく、パソコン上での定型作業を自動化するテクノロジーを導入した企業に、様々なサポートを提供するスタートアップだ。そして2022年10月には、企業と個人をつなぐオンライン人材マッチングプラットフォームを開発・運営する株式会社クラウドワークスとM&A(※1)が成立したことを電撃発表した。わずか4年で企業を急成長させ、M&Aを成功させた若き起業家・藤澤専之介さんに話を聞いた。

※1…企業同士の合併・買収を指す。

家族との時間を増やせるRPAのコンセプトに惹かれた

起業からわずか4年でM&Aを達成 RPA導入支援で“平穏な朝”をもたらすスタートアップ起業家 Peaceful Morning株式会社 藤澤専之介さん

--藤澤さんは大学卒業後、繊維メーカーや人材会社に約9年間勤務した後、企業における働き方に疑問を感じて独立した。

「以前は仕事第一の人間でしたが、結婚して、子供の送り迎えなども妻と分担していました。ただ仕事が忙しくなると、自分にとって一番大切なのは家族との時間のはずなのに、子育てがタスク化していることに気づきました。家族ときちんと向き合って、今日も良い朝だなと実感するために独立を決めました。社名にはそんな意味を込めています。勤め先での最後の1年は新規事業立ち上げの部署に配属され、ゼロからイチの事業を作る過程を経験できたことも自信につながりました。起業するにあたっては、妻から『会社員のときよりは稼いでね』とだけ言われました(笑)」

--事業としてRPAを選んだのは、単純に市場性だけが理由ではないようだ。

「当初は子育て系や人材系などの事業を考えていましたが、ある企業で人事を手伝っているとき、RPAに出会いました。定型化できるパソコン作業をRPAに受け持ってもらえば、無駄な時間が減らせ、人はもっと人間にしかできない仕事ができるようになり、家族と過ごす時間を増やすことにもつながる。RPAというツールの、そうしたコンセプトが素敵だなと感じましたし、マーケットも伸びていました。

サボりやすい性格で、起業しても自分が途中でやめたくならないか気がかりだったので、長期スパンで頑張るよりは、駆け抜けられる体制にしようと考えました。RPAはそこから2~3年が勝負の業界だと思っていたので、やらざるを得ない状況を作るにはちょうどいい素材でもありました」

--起業前、RPAや独立について模索しているとき、起業や会社売却の経験がある一人のエンジェル投資家と出会った。

「その方のアドバイスは、いつも次に進むアクションを示してくれて、確実に前に進んでいける感覚がありました。なかでも『最初の起業はやりたいことをやるよりも、できるもので、かつ伸びるところでやるのがいいよ』と教えていただいたのが響いて、RPAでいこうと腹をくくりました。ただRPAの導入支援をする会社は既にたくさんあって間に合っていると感じたので、そこでは戦わず、その周辺や、導入した後の支援をやっていこうと考えました」

ブログでの情報発信から始めて事業を拡大

起業からわずか4年でM&Aを達成 RPA導入支援で“平穏な朝”をもたらすスタートアップ起業家 Peaceful Morning株式会社 藤澤専之介さん

--投資家に言われてまず始めたのが、毎日ブログを書くことだった。

「RPAについて調べたことを毎日発信していくと、実際にRPAに携わっている人や企業から連絡をいただいて会うようになり、知り合いが増えていきました。中でも20日目に書いた、業界の企業や重要人物を地図化した『RPAカオスマップ』がバズって、多くの人に自分を知ってもらうきっかけになりました。そのうち、取材に行くならブログでなく、メディアと名乗った方がアポを取りやすいと考え、『RPA HACK』として記事を配信することが最初の事業になりました」

--その後、需要があると感じたタイミングで一つずつ事業を拡大していき、現在は大きく4つの事業を展開している。

「『RPA HACK』でフリーランスのRPAエンジニアを取材したのですが、その取材記事がよく読まれている感触がありました。そこで、ページの下に『フリーランスの人を募集しています』というフォームを作ったところ、1日2~3件登録されるようになり、これはニーズがあると感じて、求める企業に人材を紹介していく『RPAプロフェッショナル』を始めました。現在では1,000人ほどのRPAやローコードツールエンジニアが登録しています。

次に始めたのが『Robo Runnerスクール』で、RPAを学びたい需要を感じるもののオンラインに特化したところがなかったので開設しました。ここでもフリーランスの方たちに講師として活躍してもらっています。そのうち、スクールで学んだ企業の担当者から『作ったロボットが動かなくなって困っている』という悩みを聞くようになり、オンラインでRPA導入後のサポートを行う『Robo Runner』を始めました。

その裏で、問い合わせが少なくて1週間くらいでやめたサービスもあり、今後もお客様が実際に困っていることを見極めながら、サービスを増やしていきたいと思っています」

--資金面はどうしたのだろうか。

「最初の資本金100万円は自己資金です。それから、前述のエンジェル投資家の方が投資してくださいました。アドバイスを愚直に実践して報告していたところ、信頼して投資をしていただけました。その方からの紹介で融資のコンサルタントと知り合い、銀行から融資を受けることもできました。融資を受けるようになってから業務委託や社員採用を始め、今は20名くらいです」

プレスリリースとホワイトペーパーを有効活用して販路を開拓

起業からわずか4年でM&Aを達成 RPA導入支援で“平穏な朝”をもたらすスタートアップ起業家 Peaceful Morning株式会社 藤澤専之介さん

--販路の拡大のために、2021年2月に横浜ベンチャーピッチ(※3)、21年6月~22年3月にはYOXOアクセラレータープログラム2021(※4)など、横浜市のスタートアップ支援プログラムにも参加した。

「ベンチャーピッチは初めて出たピッチで、資料作りに苦労しましたし、とにかく緊張しました。でも他の起業家の方たちと接し、比較してどう自分の事業を魅力的に見せていくべきかを意識するようになりました。そこから3~4か月はピッチに多く登壇することで、出資したいと言っていただけるVC(ベンチャーキャピタル)の方からご連絡をいただく機会が増えました。

YOXOアクセラレータープログラムでは、メンターの方にRPAの導入を検討しているお客様を紹介していただけました。また、他のプログラム参加者の事業と比べて、RPAはマニアックで興味を持たれづらい、ということを客観的に見ることができたのも大きかったです。」

--YOXOアクセラレータープログラムに採択されたことなども、自社でプレスリリースを配信している。

「自分の事業を知ってもらうことには力を注いでいます。まだ始まったばかりで社会的な信頼を得られていない企業にとっては、市の支援を受ける対象に選ばれたということもお墨付きになりますから。そうしたプラスになる話題はなるべく配信するようにしています。

これまで反響が大きかったリリースは、コロナで在宅勤務が増えた際に、弊社のRPA研修ツールを無料で使えるようにした件と、マイクロソフトのRPAツールが無償で配布されるニュースが出た1週間後くらいに、その使い方の研修資料を無料でダウンロードできるようにした件です。後者は5,000本くらいダウンロードされました。興味を持たれづらい事業と自覚しているからこそ、世の中が興味を持つタイミングは逃さないようにしています。

情報を発信するだけでなく、ホワイトペーパーとして資料をダウンロードしていただく形式を取り入れたのは効果が大きかったです。RPAを導入している大企業の方がダウンロードしてくれるようになり、最初の1年間ではまったく縁のなかった大企業とつながりを持てるようになりました」

※3…横浜市経済局の事業の一環として、横浜市スタートアップ成長支援事業共同企業体が実施。資金調達や事業連携等のビジネスパートナー発掘に向けて、スタートアップが、ベンチャーキャピタルや金融機関、大企業等に対して自社の事業計画やビジネスモデルをプレゼンする。

※4…関内の横浜市スタートアップ成長支援拠点「YOXO BOX(よくぞボックス)」において、急成長を目指すスタートアップを、約半年間かけて支援するプログラム。経験豊富な専門家によるメンタリングや、パートナー企業や支援者との連携・協業機会の提供などを行う。

事業をより早く成長させるために、M&Aを決断

起業からわずか4年でM&Aを達成 RPA導入支援で“平穏な朝”をもたらすスタートアップ起業家 Peaceful Morning株式会社 藤澤専之介さん

--そうして順調に事業を拡大していた2022年10月、人材マッチング大手のクラウドワークスとM&Aが成立し、子会社となった。M&Aはいつ頃から視野に入れていたのか。

「『出資してくださる方にIPO(株式上場)などでいつかは報いる』という気持ちをずっと持っていましたが、M&Aを意識し始めたのは2022年2月頃です。当時は事業の成長に対して、メンバーの採用や育成などに手が回っておらず、組織力の強化が課題でした。ここから一段、二段と事業を成長させるために、今から自分たちで組織を作り直すよりも、いいメンバーをそろえている会社と一緒になって、そこの人材に入っていただいた方が、より早く成長できると考えたのです。

マッチング先を探すために、M&A仲介企業のプラットフォームに登録しました。多くの企業にコンタクトをいただく中で、クラウドワークスに決めたのは、仕事を生き生きと楽しんでいる優秀な方が多くて、私たちの会社とカルチャー面でフィットすると感じたからです。クラウドワークスからすると、先方は幅広いジャンルでマッチングを成立させるのに対し、我々は単一の事業で深く入っていくところに魅力を感じてくださったようです」

--他社の傘下に入ることに、社員たちから否定的な反応はなかったのだろうか。

「私も心配していたのですが、みんな企業よりも事業に興味があるメンバーだったので、すぐに『働き方は変わりますか?』とか『クラウドワークスのサービスは使えるようになるんですか?』など、前に目が向いたようです。

実はいろいろな企業とコンタクトしている間、『この企業とならこんなことができる』とどんどん可能性が膨らんで、『M&Aしなくてももっと成長できる』と思うこともありました。でも今になってみると、やっぱりM&Aして良かったですね。出向で人に来てもらって、会社ができることがどんどん増えている印象がありますから。投資家の方にとっても私自身にとっても、いい結果が得られたと思います」

--最後に今後の展望や、起業家へのメッセージをお願いしよう。

「企業としてはクラウドワークスグループの一員として、『Peaceful Morningがあったから世の中がこう変わった』と言われるような事業にしていきたいです。私個人としては、起業家支援にとても興味があります。私がエンジェル投資家の方に様々な指導をしていただいたように、背中を押してあげるようなことをしていきたいと思っています。

起業とは大きな決断ですが、起業すると何より自分自身が大きく成長します。つらいこともありますけど、本気でやりたい方は一歩踏み出してみてほしい。周りに何を言われても自分のやりたいことを貫き通してほしいですね。経営者は自分次第で時間も管理でき、お陰様で私も家族と毎日ピースフルなモーニングを迎えられています(笑)。ぜひ皆さんも挑戦してみてください」

【プロフィール】
藤澤専之介氏
Peaceful Morning株式会社 CEO

1986年生まれ、神奈川県横浜市出身。2009年、学習院大学経済学部経営学科卒業。
繊維メーカーで経理を担当後、創業直後の人材会社に転職。ステップアップのため、人材大手のインテリジェンス(現パーソルキャリア)に移り、法人営業のマネジメントや、新規事業開発を担当。2018年Peaceful Morning株式会社を創業。2022年クラウドワークスとM&A成立。

【取材】
2023年2月
インタビュアー・執筆/古沢保
編集/馬場郁夫(株式会社ウィルパートナーズ)