起業のきっかけは「怠惰」!? ヤフー株式会社退職後、ひきこもり状態から海外留学を経て、起業。 異色の起業家がEdTechに挑戦 株式会社Herazika 森山大地さん

EdTech(エドテック)とは、Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせた造語であり、テクノロジーを用いて教育を支援する仕組みやサービスのこと。教育の地域格差をなくすなど、初等教育から高度な教育まで様々なサービスを活用する動きが広がりを見せている。

自習室を自宅で再現できるWebサービス「ヤルッキャ!」を運営している株式会社Herazikaは、小学生向けサービスから始まり、2023年8月には社会人向け「Herazika(ヘラズィカ)」をリリース。満を持して社会人向けのサービスをスタートした。ここ横浜で育ち、横浜で事業を展開する森山さんが、どのように起業し、事業を育てているのか、また今後の展望は?
森山さんの拠点であり、イノベーション創出のエコシステムの構築が進む、横浜みなとみらい21地区で話を聞いた。

デンマークから帰国後、起業するしかなかった

起業のきっかけは「怠惰」!? ヤフー株式会社退職後、ひきこもり状態から海外留学を経て、起業。 異色の起業家がEdTechに挑戦 株式会社Herazika 森山大地さん

--新卒でヤフー株式会社に入社した森山さん、入社初日から5年以内にはやめようと考えていたそうだ。退職後、紆余曲折を経てどうして起業することになったのだろうか?

「新卒でヤフーに入って『有給は1年間で20日ぐらいしか取れない』ことにまずショックを受けました(笑)。ちゃらんぽらんな大学生活を送っていた自分からすると、65歳までそのペースで働くことが恐怖でしかなかった。なんだかんだ会社生活は楽しかったのですが、4年目ぐらいに新規事業の立ち上げに失敗したタイミングで辞めました。さて思いっきり休むぞと、そこから3年間ひきこもり、いわゆるニートでした。その生活が予想以上に楽しかったので、ここに友達という要素も加えると一生抜け出せないと思い、友達との連絡も全部絶っていましたね。

最初は責任もプレッシャーもない毎日を自由に楽しく過ごしていました。でもある日、飼っていたペットの些細な行動にイライラした時、自身が社会的に死にゆく状況に焦っていることに気が付きました。それでも、なんだか働きたくない、外に出たくない(笑)。そこで大学院に行ってもう一度学生をやろうと思い立ちました。どうせなら面白い学校をと、デンマークに『世界一刺激的なビジネススクール』と評判の学校を目指し猛勉強、独特な入学試験に四苦八苦しながらもなんとか合格しました。

--ひきこもり状態から海外の大学院へ。森山さんは、世界中からイノベーターを目指す人間が集まるデンマークの大学院KAOSPILOTに入学。クラスメイトのデンマーク人と起業する寸前まで行ったが、コロナで帰国せざるを得なくなった。

「帰国して、昔一緒に働いていた同僚と会ったときに、とんでもない地位や年収になっていて驚きました(笑)ニートをやって学生もやって自身は社会的に死んだと当時は思っていたので、起業しか選択肢がありませんでした。

『自分が寝ても覚めても考えられるテーマ』でないと続けられないと考え、『人間の怠惰性』を選びました。自身の怠惰さに対するコンプレックスから強迫性障害を患っていた過去があり、若い頃から様々な文献を読み漁っても解決できていなかったからです。

起業するにあたって、まず最初にやったことは会社を作ること。そうしないと、またひきこもり状態になると思ったからです。怠惰性を解決する会社を作ろうと思った段階で、会社を作って、テキトーに社名をつけて。そこからプロダクトを考え始めました」

きっかけは娘の中学受験。プロトタイプでニーズ検証から開始

起業のきっかけは「怠惰」!? ヤフー株式会社退職後、ひきこもり状態から海外留学を経て、起業。 異色の起業家がEdTechに挑戦 株式会社Herazika 森山大地さん

--2020年7月、具体的に何をするか決めることなく会社を作り、自分のテーマから提供できるプロダクトを模索。プロダクトの種は日常の中にあったそうだ。

「ちょうどその頃、娘が中学受験に入る時期で妻から『勉強しなさい、集中しなさい』と怒られているのをよく見ていました。自分と一緒で怠惰だなあ、なんて横目でその様子を見ていましたが、あまりにバトルが激しくて見ていられなくなり(笑)ちょうど勉強し始めた進化史や人類史からヒントを得つつ、学習面における怠惰性を解決するプロダクトを考え始めました。娘の問題だけではなく、怠惰性が社会に及ぼしている影響、それを解決した時にグワっと世界が動く様をイメージできたことでのめりこんでいきました。

--怠惰性を解決するプロダクトを思いついた森山さんはすぐに行動に移した。できる限りの環境を整え、仮説検証を開始した。

核となる機能のみを体験できる必要最小限のプロダクトを、できる限りコストをかけずに構築しました。それを近所の子供や、ママ友、友達に声をかけ、無料で提供して検証しました。価値のあるサービスかどうか確かめるために、仮想の支払い画面をつくり、課金まで進む割合をみていました。そこで確証を得てはじめて実際のプロダクト開発に踏み切った次第です」

--2021年2月、小学生のためのおウチ自習室『ヤルッキャ!』をリリース。サービス提供を開始した。実験と検証を繰り返した中で気づいたことがあるという。

「初期の初期は、プロダクトに対してユーザーの反応を検証するために、ある程度のユーザーを集める必要はあるのですが、目標以上のユーザーを狙おうと広報をやったり、営業をかけたりと色々動いていました。まだまだバケツに穴があいていて修繕すべき箇所が沢山あったのに、水を入れようとしている状態です。このバケツの話はIT業界では有名なので勿論知ってはいたのですが、いざ自分で会社をやるとなると早く成長しなければと焦っていました。やはり一番大事なのは、プロダクトをどれだけユーザーにぶっ刺すか(バケツの穴を埋めるか)。これがきちんとできていないのに、販路やユーザーを拡大しても意味がない。

シリコンバレーの有名なアクセラレーターの言葉があるのですが、みんな、色々やりすぎだと。やるべきことは、『優れたプロダクトを作り出す、コードを書く、顧客と話す。適度な運動、食事、睡眠。それ以外はするな』これは本当に正しいなと。やって意味がないものはないですが、リソースも時間も限られているので優先順位をつけてフォーカスしないといけない。これは自分への戒めとして意識しています」

--会社設立からサービス提供まで7か月。走り出しは順調に見えるが、資金調達において早くも壁にぶち当たった。

「正直なところ、スタートアップがこの業界でやっていくのは簡単ではないですね。子供は年々減っていますし、ベンチャーキャピタル(VC)の視点でEdTechの成功例はあまりないので、投資家たちも前向きではありませんでした。起業当初の資金調達は、前職の執行役員やFacebookの友だち欄から投資してくれそうな人を探しました(笑)数値計画もプロダクトもない状態でひたすらロマンを語るだけでしたが、複数人から出資していただけました。その後多少の実績が出てからはVC 2社から出資を受けました。でも、それからはお断りが7回連続で続きました」

7連敗から資金調達に成功。メンタリングでヒントを得た事業の魅せ方

起業のきっかけは「怠惰」!? ヤフー株式会社退職後、ひきこもり状態から海外留学を経て、起業。 異色の起業家がEdTechに挑戦 株式会社Herazika 森山大地さん

--横浜市のスタートアップを支援するプログラム「YOXOアクセラレータープログラム2022」(※1)に参加した森山さん。そこでの気づきは今の資金調達に活かされているそうだ。

「YOXOアクセラレータープログラムでは、現役バリバリのVCの方がメンターにいるので、彼らとの壁打ちが非常に役立ちました。自分だけではできない角度と深さで考える機会を与えてもらえたので、メンタリングを受けた後は、自分での深掘りが捗りましたね。事業について考え尽くしたので、その後はVCの面談でどんな質問が来ても怖くありませんでした。

資金調達に7連続で失敗したタイミングで相談したら、『君の事業はEdTechでマーケットが弱い。では、どこで蓋然性(※2)を示せばいいか。なぜ最初の2社は出資してくれたのか。君のキャラクターに可能性を感じたのではないか』とアドバイスをいただきました。この言葉が、自分を見直すきっかけになりました」

--その後はVCからの資金調達にほぼ成功しているそうだが、具体的に何を変えたのだろうか。

「『ホームランを打ちそうな奴』と思ってもらえるよう戦略立てました。VCにとってどのマーケットでやっているかがまず重要で、成長市場だと前向きな回答を得やすいですよね。でも、私の事業はEdTech、かつ人間の怠惰性という怪しいテーマを扱っていたので、それ以外で蓋然性(※2)を示さないといけない。もちろんプロダクトが爆伸びしていることがベストですが、そうとも言い切れない状況でしたので、私そのもので蓋然性を示すしかないと考えました。

面談予定のVC担当者を事前に調べ上げて、担当者がプロダクト開発に興味がありそうな人だったら、いかに開発で試行錯誤してきたかを見せる。大局的な視点に興味がありそうな人だったら、今後の方向性を具体的にロマンある形で語る。本気度をわかりやすく見せるために将来的な山の登り方も数値計画含め3パターン用意していました。また、ホームランを打つ人間が自信なさげでは話にならないので、WeWork創業者のインタビュー動画を見たりして、話し方の抑揚や声の強さ、立ち居振る舞いなども研究しました。結果的に最初のVC2社含め計6社から出資していただける運びとなりました。」

(※1)関内の横浜市スタートアップ成長支援拠点「YOXO BOX(よくぞボックス)」において、急成長を目指すスタートアップを、約半年間かけて支援するプログラム。経験豊富な専門家によるメンタリングや、パートナー企業や支援者との連携・協業機会の提供などを行う。

(※2)ある物事や事象が実現し得る確実性の度合いのこと。

横浜で事業を育てる魅力とHerazikaのこれから

起業のきっかけは「怠惰」!? ヤフー株式会社退職後、ひきこもり状態から海外留学を経て、起業。 異色の起業家がEdTechに挑戦 株式会社Herazika 森山大地さん

--横浜で着実に事業を拡大している森山さんに、横浜で事業を育てていく魅力と今後の展望を聞いた。

「他都市のスタートアップの方ともよく話しますが、横浜市のスタートアップ支援の手厚さにびっくりされます。弊社は当時BtoCの事業しかやっていなかったので活かせなかったのですが、大企業へプレゼンして、連携の機会を得る機会も提供されている。後々は販路を拡大したいと思っているので、横浜市と関係性を持つことができたのは良かったです。

2023年夏にリリースした大人向けの自学習サポート『Herazika(ヘラズィカ)』は、怠けがちな家でも机に向かえるよう/集中できるよう、やる気に頼る必要のない環境を構築したwebサービスです(合言葉は「やる気なんぞ豚にでも食わせておけ」)。今まで運営してきた、小学生向け『ヤルッキャ!』の知見を活かしてアップデートしています。資格試験、語学勉強、受験勉強など学習者なら誰でも使えます。また、今後はBtoCだけではなく、資格専門学校や英会話学校、またリスキリング推進企業と組んでBtoBtoCを広げていきます。例えば資格専門学校は、良質な授業を提供しても、学習者自身が自学習を継続できなければドロップされてしまうことに悩んでいます。一般企業も、リスキリングのコンテンツを拡充したところで、社員は自発的に学ばない。現況誰もサポートし切れていない、学習者個々人の学習環境を私たちが整えていきます。

実は特段教育に拘りがあるわけではなく、怠惰が絡む領域(三日坊主が発生し得る領域)は全て弊社の守備範囲だと考えています。究極的には、怠惰性をコントロールできる世界をみてみたい。青臭さを捨てずに突っ走っていきます」

--最後に起業家を検討している人へのメッセージをお願いしよう。

「私は『一人情熱大陸』をよくやるんですよ。一人で会社を経営していると、つまらない仕事もやらなくちゃいけない。そんなときは自分に第三者視点のカメラがついていると思って、『森山は経理の仕事にも力を抜かない』ってナレーションを入れています(笑)。あなたの情熱大陸を撮影していたとして、「頭に起業がよぎった」のナレーションのあとに、1年迷い続けた、と、次の日には辞表を出していた、だと後者の方が番組的にも面白くないですか?迷ったときは、よりドラマティックな方を選んだ方が楽しいだろうと考えていますし、起業を迷っている人にもそう話しています。要はプロセスをいかに楽しむか。思った通り進まないことも多いですが、僕も試行錯誤と発見を日々楽しんでいます」

【プロフィール】
森山大地氏
株式会社Herazika 代表取締役

兵庫県生まれ、横浜育ち。新卒でヤフー株式会社に入社、主に新規事業部のプロデューサーを務める。退職後3年間のひきこもり状態を経て、デンマークのビジネススクールKaospilotに入学。帰国後、2020年7月、株式会社Herazika 設立。

【取材】
2023年8月
インタビュアー/谷亜ヒロコ
執筆/谷亜ヒロコ
編集/馬場郁夫・桑原美紀(株式会社ウィルパートナーズ)