40年間埋もれていた日本にたった一つの技術を発見 日本の“ものづくり”を支える力で世界に進出する 株式会社LINK-US 光行潤さん・南山政貴さん
南山さん(左)・光行さん(右)

中学校の技術家庭の授業で、金属のはんだ付けをした覚えがある人も多いのではないだろうか。LINK-USの超音波複合振動接合は、はんだなどの接合材を必要としない金属の接合技術であり、これは日本に一つだけの特許技術でもある。同社はこの技術を携えて今、横浜から世界へ羽ばたこうとしている。

大学教授が開発した超音波複合振動接合との運命的な出逢い

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--光行潤さんがその技術に出逢ったのは36歳の頃。高校卒業後、父の経営する工場を手伝い、父の死後、別の製造業で働いている時期だった。神奈川大学の辻野治郎丸名誉教授の描いた図面が光行さんの元に回ってきた。教授は製品化を希望していたが、解決できない問題があって、どの企業も対応できないという話だった。しかし光行さんはその問題を解決できる方法をひらめく。教授にコンタクトを取ったところ、光行さんが製品化に向けて動くこととなった。

「超音波複合振動接合に関する依頼でした。私はそれまでの18年で設計からマシニング、旋盤、溶接など製造の一通りを経験し、製造業で一番難しくてカギになるのは接合だと痛感していました。超音波複合振動接合なら、はんだなどを使う際に異物が混入して劣化しやすくなるのを防げる上に、消費電力も少なくコストカットにもなる。これは未完成だけど、磨けば光る画期的な技術だと瞬時に感じました。ちなみに教授はこの技術を40年前には既に発明していたものの、どの企業も真似しようとしてできなかったそうです。日本はスタートアップの環境が厳しいので、同じように陽の目を見ない技術がたくさんあるのではないでしょうか」

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複合振動を発生させる、複合振動ホーン

--そこから3年間、企業勤めと並行して教授の事務所に通い、個人的に教えを受けた。そして2014年、勤務先を退職して株式会社LINK-USを創業。特許は教授から購入する形を取った。

「起業願望はまったくなく、計画も何もなかったので、事業がうまくいく確信はありませんでした。ただ、教授の技術が本物だったので、これが埋もれていくのはもったいない、自分がやるしかないという気持ちでした。教授は2020年に82歳で亡くなったのですが、ぶっきらぼうな方だったので、『商品化してくれてありがとう』とは一度も言われたことがありません(笑)。ただ周りの方によく言われるのが『よく先生が権利を譲ってくれたな』ということ。私はなぜか懇意にしていただいて、生前はよく食事にも連れて行ってもらいました。ご自身の技術が広まっていることを喜んでくれていたら良いなと思います」

苦労した資金調達、金融機関には相手にしてもらえず…

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――ただ、会社の運営は一筋縄ではいかなかった。

「製造系のスタートアップはどこもそうだと思いますが、開発にお金がかかるから資金調達をしなければなりません。けれど、具体的な製品がないから話が難しい。当初は融資を受けようと地銀なども回りましたが、相手にしてもらえませんでした。そこでベンチャーキャピタルを回り、とにかく技術の素晴らしさを説明して3社から3.5億円を調達することができました。開発には3~5年かかるので、その間は金策に駆けずり回っていた印象です。圧倒的に知名度が低かったので、営業は代理店とタッグを組みながら、ビッグサイトや名古屋、大阪、福岡などあちこちの展示会に出て、技術を目の前で見てもらって受注していきました。そうするうちにリチウム電池のパイオニアである企業が目をつけてくれて、2015年に初号機を納品し、17年に量産化することができました」

40年間埋もれていた日本にたった一つの技術を発見 日本の“ものづくり”を支える力で世界に進出する 株式会社LINK-US 光行潤さん・南山政貴さん

――2018年には財務面を強化するため、現CFO(※2)の南山政貴さんを採用した。ベンチャーキャピタルが紹介してくれたエージェントが挙げた候補数名の中から、年齢が同じで社風に合った南山さんを選んだという。

南山さん「私はそれまでは、いくつかの上場企業などで財務を担当してきました。機械工業は全くの専門外でしたが、成長ステージにいるスタートアップに携わってみたいという思いがありました。社内では上下関係がなく横一線で、社長も含めて役職で呼ばないフラットな感覚がいいと感じ、そして何より光行さんに会って、この人と働いてみたい、と思いました」

――資金調達の手応えも大きいようだ。

南山さん「超音波複合振動接合は、EV(電気自動車)や半導体などの成長産業で使われる技術なので伸びしろがあり、世界に進出できるグローバル産業であることなど、いくつもセールスポイントがあります。ただ、技術の内容を理解していただくことは簡単ではないので、いかにわかりやすく伝えるか説明資料にはこだわっています。中でも日本の強みである『ものづくり』を根底で支える技術であることを伝えると、投資家の方には響くようです。最近はホームページを見て、先方から投資したいとご連絡をいただくことも増えています」

※2…最高財務責任者。企業の財務パフォーマンスを向上させるため、財務戦略を立案・遂行する。

海外展開が本格化し、医療や宇宙分野も視野に

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世界初の超音波複合振動接合技術を体験できるラボ

――納入先は半導体やバッテリーなどの製造会社が多く、ここ数年は海外展開に力を入れている。

「これまでいろいろなところに種をまいてきて、国内の狙っていた電池メーカー、完成車メーカーはほぼすべて取引できるようになりました。今年から来年にかけて量産化が始まり、今はエンジニア増員のため募集をかけています。

創業当初から海外も見据えていて、海外の超音波溶着機の企業を超えるのが目標でした。少し時間がかかってしまいましたが、2021年に韓国と取引が始まりました。前職時代からの知人の知り合いに韓国の接合分野の権威のような大学教授の方がいて、その方が学会などで技術を発表してくれて、一気に問い合わせが来ました。今、韓国では弊社の知名度が上がってきていて、他にも中国、アメリカ、ヨーロッパと取引が始まっています。日本の大手商社から声を掛けていただくことも多いです。海外はマーケットが大きいこと、そして海外の企業は日本と比べてはるかに導入の判断が早い点が魅力です。日本は慎重なので実験機を納入しても量産化には至らなかったり、導入に1~2年かかったりするのに対し、海外はその半分くらいで済みます」

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Startup Island TAIWAN主催「日本・台湾イノベーションサミット」

――今後はどんな展開を見据えているのか。

「世界でEV化が進む中、バッテリーメーカーのギガファクトリーが急速に増えていて、しばらくはバッテリー関連が忙しそうです。またこの技術は切断にも応用できて、医療用の超音波メスも、現在ドクターチェックを行なうところまで進んでいます。そして私には創業時から宇宙産業に貢献したいという夢があり、航空・宇宙分野の企業にもPRを進めています」

新横浜で本社を拡張移転。更なる事業拡大へ

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同社の技術をイメージした金属接合がテーマとなったエントランス

――オフィスは創業時から新横浜に構え、現在は住まいも新横浜に移したほど根付いている。

「新幹線の駅が近かったのが大きな理由ですね。パナソニックなどの大手メーカーがある関係で、バッテリーメーカーは関西や中京圏に多いです。羽田空港にも直通バスで30分で行けますし、東京にも新幹線で行けば17分で便利です。

また横浜市の支援も大きいです。今年5月には、SusHi Tech Tokyo 2024(※3)の横浜市ブースに出展したり、市の紹介でJETRO(※4)を介して、韓国のNextRise(※5)というイベントに、いずれも無料で出展できたのも助かりました。会場で知り合い、具体的に商談につながった企業もありましたし、海外展開のノウハウも勉強になりました。海外の企業と出逢える機会を、今後もどんどん作っていただければ嬉しいです」

――2024年8月には新横浜内で1.7倍ほどの広さのオフィスに移転。横浜市次世代重点分野立地促進助成(※6)も活用予定だ。

「助成金の活用を進めながら、本社移転を増床移転することができました。このタイミングで、開発拠点となるラボを拡大し、社員も10名ほど増えました。前のオフィスは手狭になっていたので、環境はとても快適ですし、助成制度は費用面でも大変助かります。」

40年間埋もれていた日本にたった一つの技術を発見 日本の“ものづくり”を支える力で世界に進出する 株式会社LINK-US 光行潤さん・南山政貴さん

――創業から10年を迎えて、まさに飛躍しようとしている同社だが、光行さんが会社の運営で大切にしているのはどんなことだろう?

「LINK-USという社名のUSは『超音波』の意味であり、私たちの技術で金属を接合するとともに、人と人をつなぐ企業でありたいという意味もあります。そのためにはお互いにリスペクトが必要。仕入れる側だと上から目線になってしまう人もいますが、仕入れ先があるから我々も成り立っているので、絶対にそうならないようにと伝え続け、社員の間でも浸透しています。」

――11月にはグローバルをテーマに、新たな横浜市のテック系スタートアップ支援拠点TECH HUB YOKOHAMAがオープンするが、どのようなことが期待できるだろうか。

「横浜にはスタートアップがたくさんあって、海外に勝つためにはニッチな技術を持ったスタートアップが連携して海外に出ていくべきだと思っています。企業間の壁を取り払ってWin-Winの関係で、企業と企業のつなぎ役にもなっていけたらと思って動き出しています。市にそういう連携の拠点(※7)があると嬉しいですし、ぜひスタートアップ同士でいい技術をPRしていきましょう」

※3…アジア最大級のグローバルイノベーションカンファレンスとされるイベント。Global Startup Programには約4万人が参加し、東京ビッグサイト内の横浜市ブースには市内スタートアップ4社が出展した。
※4…独立行政法人日本貿易振興機構。2003年設立。貿易・投資促進と開発途上国研究を通じ、日本の経済・社会の更なる発展に貢献することを目指す。海外に約70か所、国内に約50か所の拠点がある。
※5…韓国最大級のスタートアップイベント。2024年は日本が主賓国となり、LINK-USを含む日本企業10社が出展した。
※6…脱炭素社会の推進や「子育てしたいまち、次世代を共に育むまち」の実現に向け、脱炭素、子育て、モビリティ分野の次世代を担う重点分野の企業の立地を支援するための助成制度。
※7…2024年11月、横浜市は、横浜からユニコーン・クラスのスタートアップを創出することを目指し、みなとみらい21地区にテック系スタートアップ支援拠点TECH HUB YOKOHAMAをオープン。海外支援機関などとも連携して、大企業との協業促進や資金調達、実証実験など、スタートアップのグローバルな活躍に向けたビジネス機会をコーディネートしていく。

【プロフィール】
光行 潤氏
株式会社LINK-US 代表取締役
1975年3月20日生まれ、神奈川県横浜市出身。
1993年、藤嶺学園藤沢高校卒業。
父親が経営するアルミダイキャスト製造会社、総合機械加工会社に勤務。
2014年、株式会社LINK-US 創業。

南山政貴氏
株式会社LINK-US CFO
1974年10月31日生まれ、長野県出身。
1997年、桜美林大学経済学部卒業。
食品会社、エレベーター製造会社、旅行会社などに勤務。
2018年に株式会社LINK-US に入社。

【取材】
インタビュアー/古沢保
執筆/古沢保
編集/馬場郁夫・桑原美紀(株式会社ウィルパートナーズ)