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起業家インタビュー

大手IT企業を辞め、青果店で半年修行…フードデリバリー市場で急成長する注目のスタートアップ企業CEO
スカイファーム株式会社 木村拓也さん

大手IT企業を辞め、青果店で半年修行…フードデリバリー市場で急成長する注目のスタートアップ企業CEO スカイファーム株式会社 木村拓也さん

「最初の起業では心が折れきって、もう二度と会社経営はしたくないと思いました」と話す今回の主人公。けれど彼は再び起業し、今、事業は実を結びつつある--。

現在、横浜ランドマークタワーなどを基点に、フードデリバリーとスマートオーダー(※1)のシステムを飲食店に提供しているスカイファーム株式会社の代表取締役CEO 木村拓也さん。
実は木村さんには、仲間とWebCM制作会社を経営した後、数年間の会社員生活を経験し、再びスカイファーム株式会社を起業した経緯があった。一度の挫折を経て見えてきたものとは何だったのか?横浜みなとみらいのランドマークプラザ地下1階にあるシェアオフィスBUKATSUDOに木村さんを訪ねた。

※1…事前にスマホなどで注文・決済をしておいて、店頭でスムースに食事をテイクアウトできるサービス。

マーケットにはタイミングがあることを理解していなかった

大手IT企業を辞め、青果店で半年修行…フードデリバリー市場で急成長する注目のスタートアップ企業CEO スカイファーム株式会社 木村拓也さん

木村さんは大学卒業後に大学の先輩とWebCM制作会社を創業した。「父親が理容業で店を数軒経営していたので、自分で会社を経営することにはハードルがなく、逆に会社員になるというイメージがあまりなかったですね」。だが、この会社で経営の難しさを思い知り、2年ほどで退職することになる。

「力不足を実感しましたね。KPI(※2)など基礎的なことも理解していなかったし、何をすれば成功するのかもわかっていなかった。ひたすら会社に泊まって労務時間だけが増える感じで、今思えば、うまく行くはずないよなと(笑)。心が折れきって、もう二度と会社経営はしたくないと思いました」

※2…重要業績評価指標のこと。新規顧客獲得数、新規受注獲得数など。

ちなみに今、一番の失敗の原因は何だったと、考えているのだろう。

「10年くらい前、『これからはWebCMが絶対に来る!』と考えていて、それも『早ければ早いほどいい』という考えでやっていたんです。でも当時はまだ、世の中がWebCMにお金を払おうなんて考えていなかった。今みたいに子供たちの憧れの職業にYouTuber(ユーチューバー)が入る時代の今とマーケット環境は大きく違いました。5年くらい前が、WebCMで起業するには一番いい時期だったでしょうね。マーケットインにはタイミングがあるということを理解していなかったんです」

その後は外資系企業に入りメディアコンテンツ事業を担当し、国内大手IT企業でWebマーケティングに携わった。世の人が羨むような職場だが、それでも再び自身で会社を興そうという気になったのは何故だったのか。

「Webマーケティングの仕事は、最初は大企業のプロモーションが多かったんですけど、次第にスタートアップ企業のマーケティングに携わる機会が増えて。最初は5万円、10万円の予算でマーケティングを始めた企業が、次には予算が1億円になる光景を、まざまざと見て、『楽しいな、自分もやりたいな』という思いが再燃しました。会社員として数年間経験を積む中で、“あの時こうすれば良かったんだ”という発見も多数あり、もう起業したい気持ちが抑えられなくなって、一気に突き進んでしまった感じですね」

今度は絶対に1人でやろうと心に決めていた

大手IT企業を辞め、青果店で半年修行…フードデリバリー市場で急成長する注目のスタートアップ企業CEO スカイファーム株式会社 木村拓也さん

スカイファーム株式会社の創業は2015年7月。新たに事業として目を付けたのが、Webで行う野菜の宅配サービスだった。自分と同世代の若手サラリーマンは、健康が気になるけれど会社帰りには青果店が閉まっているため、需要があると考えた。その頃、妻が妊娠しており、健康に対する意識が高まっていたことも理由の1つだ。有機農家が経営する青果店で半年間修行を積みながら起業準備をした。しかし、そこで野菜の宅配は難しいと悟る。若い世代は健康意識が高くても、調理する時間がないから購買に結びつかないのだ。そのうち、来店するシェフたちに「野菜じゃなくて、野菜を使った料理を配達すればいいじゃない」と言われたことがきっかけで、フードデリバリーに意識がシフトしていった。

「最初は1人で起業して、友人の会社へ料理を自分で運んだりしていました。以前のWebCMの会社は先輩と4人で始めたんですけど、共同経営って良し悪しがあって(笑)。模索する段階で何人もいると、進展が遅くなるケースがあるんですね。だから今度は絶対に最初は1人ではじめようと心に決めて、社員を採用するまで1年近くは1人でした。経営に関わるコアメンバーに加わってもらったのも今年の2月からですから、3年半は1人でベース作りをしてきたことになります。」

ところで、大手企業を辞めて、しかも子供も授かったタイミングでの独立に、家族の反応はどうだったのだろうか?

「最初はひたすら反対されました(笑)。10か月くらいはずっと押し問答を繰り返し、最後は妻が『一度やらせてみて、ダメだったら諦めるだろう』と折れてくれました。僕も、きちんとした展望や勝算があるわけでもなく、説明もしないで、ただやりたいという気持ちだけを伝えていたのが、良くなかったですね。だけど忙しくなった今は、妻も仕事にフルコミットしてくれています」

シェアオフィスだからこそ生まれた仕事がたくさんある

大手IT企業を辞め、青果店で半年修行…フードデリバリー市場で急成長する注目のスタートアップ企業CEO スカイファーム株式会社 木村拓也さん

フードデリバリーの需要が高いということで、渋谷・お台場・六本木・みなとみらいの4か所を候補地に考えた。その中で競合がおらず、就業人口が多いみなとみらいに白羽の矢を立てた。当時、神奈川県三浦市に住んでおり、市場調査の中でみなとみらいのレストラン経営者と意気投合したことも決め手となった。事務所は2017年にネットで前出のシェアオフィスBUKATSUDOを見つけ、下見に来てすぐに気に入り、即入居を決めた。

「1人でも始めやすい雰囲気が良かったですね。コワーキングスペースで顔見知りになりやすい、大手IT企業の方が個人的に利用していたりもする。毎週水曜日にキッチンで飲み会が開催されていて、そこで生まれたイベントや仕事も多くあります。こういうのがシェアオフィスならではですね。」

“カジュアルなつながりを仕事に結びつけていく”まさに今どきのシェアオフィスのメリットを上手に活かしている印象だ。

大手の参入で急成長するフードデリバリー市場の波に乗って

ここでフードデリバリー市場の状況を確認しておこう。

「僕が始めた2015年は、アメリカでフードデリバリーへの投資が盛んになっていた頃で、日本では渋谷が盛り上がっていました。だけど横浜では普及していなかったので、飲食店に『出前をやらせてください』と営業に行っても、全く話が通じない状況でした。お店の開拓が難しくて、経営状況も厳しかったです。それが大手不動産ディベロッパー社員と知り合って、営業にも同行してくださってからは一気に開拓が進み、大手の威力とノウハウを実感しました。また、日本でも外資系のフードデリバリーサービスが台頭してきて、フードデリバリーが一般的になってきたことも大きかったです」

外資系のフードデリバリーサービスは、一般的にはスマホやパソコンで飲食店にデリバリーの注文をすると、配達パートナーとして登録している一般の人がマッチングされ、自転車や原付バイクで運んでくれるシステムが多い。アメリカから入ってきた新時代のシステムで、ここ数年で急成長し、フードデリバリーの市場全体も急拡大している。

ただ、時間指定が難しい、誰が配達にくるか分からないなど配達する人材のクオリティコントロールが出来ないといった課題もあるようだ。

それに対し、「弊社では、注文と決済のシステムを提供するだけでなく配達も合わせて行っています。配達スタッフは大手百貨店出身者や接客経験者を中心に採用しているので、きちんと“接客”の意識を持った人が多い。弊社は法人の利用が多いのですが、弊社の配達スタッフのクオリティを信頼して選んでくださる法人も多いです。当初は意識していなかったことが、差別化につながっています。外資系のフードデリバリーサービスが市場を開拓してくれたお陰で弊社も成長できていて、ありがたいと思っています」

先ほどの言葉を借りていえば、まさに“マーケットとタイミングが合った”ということだろう。また、1つのビルに絞ってコンパクトに事業を展開するというのも、成功の一因だった。

「僕の中にはビル単体でやるという発想は無く、なるべくエリアを広げるという考えしかなかった。発想を転換できたのも大手不動産ディベロッパーと組んだお陰です。横浜、丸の内が軌道に乗って、大阪もそのモデルでスタートしました。一方で、私が創業した頃にフードデリバリーを手がけていた他社の多くは、広範囲でやろうとして現在は撤退したり大手に統合されたりしている。局地的にやっていく発想がなかったら、うちも既になくなっていたと思います」

人の話を聞くことでビジネスは生まれる

大手IT企業を辞め、青果店で半年修行…フードデリバリー市場で急成長する注目のスタートアップ企業CEO スカイファーム株式会社 木村拓也さん

現在は9月にFOOD&TIME ISETAN YOKOHAMAのデリバリーが始まったのに加え、横浜エリアで大規模案件が複数進行している。一時はほとんどの業務を1人で担当していたため、大きなビジネスの話が舞い込んでも、対応する時間がなかったというが、信頼できるメンバーを採用できて、事業を拡大する体制も整ってきた。

「今、一緒に仕事をしてくれているメンバーは、会社員時代にビジネススクールで知り合った友人や元同僚が中心です。そういう頼れる知り合いが増えた点でも、一度企業に就職した意味は大きかったと思います。外資系企業や大手のIT企業は、いずれは独立しようと考えている優秀な人も多いし、会社もそれを認める風土ができている。リクルーティングの観点でもお勧めです…と言うと怒られちゃうかもしれないですけど(笑)。同時に、業界は狭くて、競合や取引先にかつての上司や同僚がいることもけっこう多い。だから会社員時代の人間関係や環境も大事にしてほしいと思います」

最後に、今や注目の若手経営者となった木村さんから、起業を志している人たちにメッセージを贈ってもらおう。

「僕のように企業に勤めながら、独立を考えている人には、会社員をやりながらシステムを組んでみるなど、スモールテストをたくさんしてみてほしいですね。今は兼業しながら小さく始めて実証実験をしてみる土壌があります。アクセラレータープログラムを導入している企業も多いので、大手や事業者のフィードバックをもらいながらブラッシュアップしていくこともできます。手応えを得た段階から起業しても遅くはないし、その方が僕のようにリスクを背負わないで済むと思います(笑)。そして僕が大事にしているのは、人の話を聞くこと。振り返ってみれば、野菜からフードデリバリーにシフトしたことも、ビル単体で事業を始める形態が生まれたことも、人との話の中で生まれたもの。自分自身で思いついたものなんて一つもないんじゃないかと思います。でも一方で、“ビジネスってそういうものじゃないか?”とも感じています。経営者は発明家ではないので。人との対話の中で生まれたものを意思決定を通して形にしてゆくのが仕事だと思っています」

【プロフィール】
木村拓也氏
スカイファーム株式会社 代表取締役CEO

大学卒業後、学生時代の友人とWebCMコンテンツの制作会社を設立。その後退職し、外資系企業にてメディアコンテンツ事業、国内大手IT企業にてWebマーケティングなどに携わった後、2015年7月にスカイファーム株式会社を創業。現在は、横浜みなとみらいエリアデリバリーサービス「ニューポート」、大手町・丸の内・有楽町エリア限定手土産デリバリーサービス「TANOMO GIFT」、グランフロント大阪オフィスワーカー向けデリバリーサービス「グラデリ」などを展開。将来的には過疎地帯でのロボットやドローンを使ったデリバリーなども考えている。

【取材】
2019年9月 インタビュアー/古沢保