横浜スタートアップ事業者レポート《株式会社ここくらす 荒井聖輝さん》


株式会社ここくらすは、築54年と59年という2棟のコンクリートアパートをリノベーションし、建物だけでなく空間そのものをシェアする複合施設「しぇあひるずヨコハマ」を運営している。

いま、多くの分野へ広がりを見せるシェアビジネス。代表取締役の荒井聖輝さんに、事業としての魅力や今後の見込み、起業にまつわるサポート体制などについて話を聞いた。

 

「しぇあひるずヨコハマ」という事業

京急本線神奈川駅から急坂を上ること5分。横浜駅を間近に見下ろす高台に、「海」、「空」、そして荒井さん一家が住む「陸」という名の3つの建物が、広場を囲むように建っている。住居や事務所として使われている賃貸7部屋のほかに、ラウンジやホール、屋上などの共用部分が設けられ、その共用部分は居住者以外の人も利用できるのが特徴だ。

ここは荒井さんの親族が1953年に移り住み、荒井さん自身も中学生の時から暮らした地。祖父が建てたアパートは老朽化し空き家となったが、法律上、一度壊すと建て直しも売却もできない再建不可物件だった。

かつてはアーチストや外国人も暮らした歴史ある建物を、どうするか。21世紀は人口が減り、経済は衰退。これまでのやり方では立ち行かなくなる。「自分たちで使いこなせないなら、住みたい人に開放しよう」。2015年、ソーシャルビジネスの起業を決意した荒井さんは5年間勤めたデル株式会社を退社。建物とその空間、ライフスタイルまでもシェアできる複合空間をつくろうとプロジェクトを立ち上げた。

 

1年間の社会実験

リノベーションの先駆者から様々な手法を学び、2016年4月に法人化。まずは地域のニーズを知るために社会実験と称し、1年間かけて様々なイベントを試みた。屋外のITワークショップや断水、停電下での避難宿泊体験。防災関連のイベントは、地域住民の理解を得るのに有効だったという。さらには、親子で落書きし放題の夏休み宿泊体験やハロウィンイベントなどなど。廃墟同然の室内を逆手にとった催しはワクワク感にあふれていた。外から入れるトイレやシャワー室、屋外で使える200Vの電源を設置したのは、この時の経験があったからだ。

自治会では総務部長を務める。近所の店にケータリングを頼んだり、老朽化して放置されていた空き部屋にあったゴミの撤去をお宝山分けと言って協力を求めたりするうちに地域との関係ができ、みんなが使える場所という形が見えてきた。

 

 

SNSと信頼と

築地生まれ、浅草育ちの荒井さん。あたり前にあった地域のつながりが希薄になり、昨今、新築される駅ビルはどこも同じ顔をしていることに違和感を抱く。「かつては宿場町だった神奈川。豊かな暮らしや知恵が詰まった21世紀の長屋、旅籠のような場をつくりたい。」というビジョンを掲げ、SNSで情報を発信。地域づくり大学校や起業に関する勉強会にも参加した。ネットでつながるだけではなく、同じような考えを持つ人が参加するイベントがあれば自分も足を運んだ。この人に会ったらいいと言われた人には、必ず会いに行った。

資金を集めるため、100万円を目標に始めたクラウドファンディングでは、達成率254%。163人の支持を得た。

また銀行から多額の融資を受ける際は、地域とのつながりを持ったことや、クラウドファンディングを通じて多数のメディアから取り上げられたことが、評価につながったという。

「起業までには時間がかかる。やると決めたら早く創業して、仲間づくり、資金作りをすることが重要だと実感しました」と、起業当時を振り返る。荒井さんのビジョンに共感し、空間を一緒に作っていこうという仲間がしだいに増え、オープン前の段階で賃貸可能な8室の入居者のうち5部屋は決まっていた。

 

人がやっていないことをやる!

「しぇあひるずヨコハマ」の賃貸の部屋は、居住者が自由にリノベーションできる。最小限のしつらえを整え、あとは住んだ人が付加価値を与えてくれるという考え方。賃貸物件では常識の、原状復帰の必要はない。また、屋上は1時間2,000円で貸し出し、机やイスのセッティングまで行う。遠くはスカイツリーや日光の男体山まで見える360度の眺望、夜景は素晴らしく、花見やバーベキュー、花火大会に利用されることも多い。

「海」の3階にあるラウンジは、1時間3,000円。船中を思わせる趣ある空間に、キッチンやお酒も飲めるカウンターもある。居住者は無料で利用でき、楽器を演奏したり映画鑑賞をしたりと、くつろぎ、交流の場となっている。

このように、賃貸物件の賃料と、共有部分の時間貸しの賃料の両方が収入になるのが、この事業の魅力だ。

「築浅ではなく、古いことに価値がある。セキュリティーは、フルオープンにしてみんながいるから不審者が近づきがたい雰囲気になっている。廃材は処分しないで、みんなで分け合って利用する。すべて真逆の考え方です」と楽しそうに話す。

 

サテライトハウスを作りまち全体をシェアハウス化する

オープンから半年余り。しぇあひるずヨコハマの部屋が満室で住めないなら、近くに住みたいという人が増えている。その結果、近くの空き物件を探す状況が生まれているのだ。「これは想定外でした。」と荒井さん。

現在は、近隣の空き部屋をサテライトハウスにして、まち全体をシェアハウス化しようとするプロジェクトにまで発展している。そこに住む人が増えれば、町内会のイベントに参加する人が増え、担い手不足も解消。町の雰囲気は良くなり、エリアの価値はさらに上がっていく。

「人とつながることで、数値では表せない幸福度が増していく。経済の衰退が前提の社会でも、人が関われる余白があればそこに人は集まり、まだまだできることがあります。」という荒井さんの言葉は力強い。もしこれが実現すれば、地域、ひいては日本全体がすこしずつでも変わっていくのではないか。一人暮らし、空き家が増加する都市の課題を解決する糸口が見えたような気がした。

 

 

お知らせ
株式会社ここくらすの荒井さんは横浜市のソーシャルビジネス創業講座を受講して起業の基盤を作られました。横浜市の新規開業(創業)に関する各種支援メニューについては下記のページをご参照ください。

ソーシャルビジネス・スタートアップ講座(横浜市のソーシャルビジネス創業講座)
http://massmass.jp/event/sbsp/2017/02/

横浜市経済局(横浜に進出・開業をお考えの皆様へ)
http://www.city.yokohama.lg.jp/keizai/kaigyou/

 

組織紹介

株式会社 ここくらす
http://coco-kurasu.co.jp

所在地:
神奈川県横浜市神奈川区高島台1-5

取材:2017年11月

 


横浜スタートアップ事業者レポート《株式会社ここくらす 荒井聖輝さん》


株式会社ここくらすは、築54年と59年という2棟のコンクリートアパートをリノベーションし、建物だけでなく空間そのものをシェアする複合施設「しぇあひるずヨコハマ」を運営している。

いま、多くの分野へ広がりを見せるシェアビジネス。代表取締役の荒井聖輝さんに、事業としての魅力や今後の見込み、起業にまつわるサポート体制などについて話を聞いた。

 

「しぇあひるずヨコハマ」という事業

京急本線神奈川駅から急坂を上ること5分。横浜駅を間近に見下ろす高台に、「海」、「空」、そして荒井さん一家が住む「陸」という名の3つの建物が、広場を囲むように建っている。住居や事務所として使われている賃貸7部屋のほかに、ラウンジやホール、屋上などの共用部分が設けられ、その共用部分は居住者以外の人も利用できるのが特徴だ。

ここは荒井さんの親族が1953年に移り住み、荒井さん自身も中学生の時から暮らした地。祖父が建てたアパートは老朽化し空き家となったが、法律上、一度壊すと建て直しも売却もできない再建不可物件だった。

かつてはアーチストや外国人も暮らした歴史ある建物を、どうするか。21世紀は人口が減り、経済は衰退。これまでのやり方では立ち行かなくなる。「自分たちで使いこなせないなら、住みたい人に開放しよう」。2015年、ソーシャルビジネスの起業を決意した荒井さんは5年間勤めたデル株式会社を退社。建物とその空間、ライフスタイルまでもシェアできる複合空間をつくろうとプロジェクトを立ち上げた。

 

1年間の社会実験

リノベーションの先駆者から様々な手法を学び、2016年4月に法人化。まずは地域のニーズを知るために社会実験と称し、1年間かけて様々なイベントを試みた。屋外のITワークショップや断水、停電下での避難宿泊体験。防災関連のイベントは、地域住民の理解を得るのに有効だったという。さらには、親子で落書きし放題の夏休み宿泊体験やハロウィンイベントなどなど。廃墟同然の室内を逆手にとった催しはワクワク感にあふれていた。外から入れるトイレやシャワー室、屋外で使える200Vの電源を設置したのは、この時の経験があったからだ。

自治会では総務部長を務める。近所の店にケータリングを頼んだり、老朽化して放置されていた空き部屋にあったゴミの撤去をお宝山分けと言って協力を求めたりするうちに地域との関係ができ、みんなが使える場所という形が見えてきた。

 

 

SNSと信頼と

築地生まれ、浅草育ちの荒井さん。あたり前にあった地域のつながりが希薄になり、昨今、新築される駅ビルはどこも同じ顔をしていることに違和感を抱く。「かつては宿場町だった神奈川。豊かな暮らしや知恵が詰まった21世紀の長屋、旅籠のような場をつくりたい。」というビジョンを掲げ、SNSで情報を発信。地域づくり大学校や起業に関する勉強会にも参加した。ネットでつながるだけではなく、同じような考えを持つ人が参加するイベントがあれば自分も足を運んだ。この人に会ったらいいと言われた人には、必ず会いに行った。

資金を集めるため、100万円を目標に始めたクラウドファンディングでは、達成率254%。163人の支持を得た。

また銀行から多額の融資を受ける際は、地域とのつながりを持ったことや、クラウドファンディングを通じて多数のメディアから取り上げられたことが、評価につながったという。

「起業までには時間がかかる。やると決めたら早く創業して、仲間づくり、資金作りをすることが重要だと実感しました」と、起業当時を振り返る。荒井さんのビジョンに共感し、空間を一緒に作っていこうという仲間がしだいに増え、オープン前の段階で賃貸可能な8室の入居者のうち5部屋は決まっていた。

 

人がやっていないことをやる!

「しぇあひるずヨコハマ」の賃貸の部屋は、居住者が自由にリノベーションできる。最小限のしつらえを整え、あとは住んだ人が付加価値を与えてくれるという考え方。賃貸物件では常識の、原状復帰の必要はない。また、屋上は1時間2,000円で貸し出し、机やイスのセッティングまで行う。遠くはスカイツリーや日光の男体山まで見える360度の眺望、夜景は素晴らしく、花見やバーベキュー、花火大会に利用されることも多い。

「海」の3階にあるラウンジは、1時間3,000円。船中を思わせる趣ある空間に、キッチンやお酒も飲めるカウンターもある。居住者は無料で利用でき、楽器を演奏したり映画鑑賞をしたりと、くつろぎ、交流の場となっている。

このように、賃貸物件の賃料と、共有部分の時間貸しの賃料の両方が収入になるのが、この事業の魅力だ。

「築浅ではなく、古いことに価値がある。セキュリティーは、フルオープンにしてみんながいるから不審者が近づきがたい雰囲気になっている。廃材は処分しないで、みんなで分け合って利用する。すべて真逆の考え方です」と楽しそうに話す。

 

サテライトハウスを作りまち全体をシェアハウス化する

オープンから半年余り。しぇあひるずヨコハマの部屋が満室で住めないなら、近くに住みたいという人が増えている。その結果、近くの空き物件を探す状況が生まれているのだ。「これは想定外でした。」と荒井さん。

現在は、近隣の空き部屋をサテライトハウスにして、まち全体をシェアハウス化しようとするプロジェクトにまで発展している。そこに住む人が増えれば、町内会のイベントに参加する人が増え、担い手不足も解消。町の雰囲気は良くなり、エリアの価値はさらに上がっていく。

「人とつながることで、数値では表せない幸福度が増していく。経済の衰退が前提の社会でも、人が関われる余白があればそこに人は集まり、まだまだできることがあります。」という荒井さんの言葉は力強い。もしこれが実現すれば、地域、ひいては日本全体がすこしずつでも変わっていくのではないか。一人暮らし、空き家が増加する都市の課題を解決する糸口が見えたような気がした。

 

 

お知らせ
株式会社ここくらすの荒井さんは横浜市のソーシャルビジネス創業講座を受講して起業の基盤を作られました。横浜市の新規開業(創業)に関する各種支援メニューについては下記のページをご参照ください。

ソーシャルビジネス・スタートアップ講座(横浜市のソーシャルビジネス創業講座)
http://massmass.jp/event/sbsp/2017/02/

横浜市経済局(横浜に進出・開業をお考えの皆様へ)
http://www.city.yokohama.lg.jp/keizai/kaigyou/

 

組織紹介

株式会社 ここくらす
http://coco-kurasu.co.jp

所在地:
神奈川県横浜市神奈川区高島台1-5

取材:2017年11月